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2024年度を迎えるにあたって

一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)
理事長 大野修一

このたび、2024年度を迎えるにあたり、関係者の皆様にご挨拶を申し上げます。

世界中がウィルスに振り回される3年余りの混乱の時代も、昨年5月のWHOの「宣言」終了を持ってようやく終わりを告げ、新しい「ポストコロナの時代」が始まりました。
振り返りますと、コロナ禍がきっかけとなって、従来の予想を大きく上回る急スピードでの社会やライフスタイル、産業基盤の大変化がもたらされました。また、この間に生成AI技術の飛躍的革新が加速し、つい最近まで考えられなかったような広範な応用分野での大規模な展開が進んでいます。

昨年はまた、異常気象が世界中で確認された年でもありました。日本では炎暑の夏が続きましたが、海外での大規模な洪水や大嵐、火山噴火や大地震など、波乱に満ちた年になりました。そのような事情もあって、環境問題への関心や取り組みも加速化し、EVを始めとする新たな産業分野で新しい企業が急成長するなど産業構造の変化が加速しました。
翻って日本をみると、こうした変化をリードするどころか、戸惑い、立ち尽くしているようにさえ思えてなりません。特に、大手企業には、世界の技術革新をリードし、新規分野で活躍する企業が目立っていたかつてのような勢いは見られないように感じます。

しかし、このような表面上の停滞の陰で、水面下では若い人々を中心に、変革を求める動きが加速していることも事実です。政府もこうした動きに注目して、「新しい資本主義」というビジョンの中で社会変革を目指す経営者や企業を支援する動きを示しています。また、金融機関を中心とする「インパクト志向金融宣言」のような動きが広がっていることも事実です。

こうした中、昨年SIIFでは、前年度に設定した 2025年度までの中期戦略に沿った活動を展開してきました。この新しい戦略では以下のような3つの目標を掲げました。
①シンボリックな事例と実績作り、②新しい経済の実践知作り、③多様な実践者が行き来する場作り

先ず、①では注力すべき具体的な課題として「ヘルスケア」「地域活性化」「機会格差」 という3つの具体的テーマを設定しました。そして、これらの3つの分野それぞれについて議論して構造課題を分析、その成果を7月に「ビジョンペーパー」として公開するとともに、具体的な取り組みを準備して来ました。

このうち、最も先行した「ヘルスケア」の分野では、かんぽ生命、帝國製薬、慶應義塾大学などの出資を得て、「ウェルネスファンド」が6月にスタートしました。残りの2つのテーマでは、システムチェンジ実現のためのパートナーを公募することとしました。公募期間は10月から11月にかけての1ヶ月に過ぎませんでしたが、2つのテーマを併せて、89件もの応募がありました。新年早々には、これらの協働先とのパートナーシップに基づく事業が始まる予定です。

次いで、②「実践知」では、財団内にインパクトエコノミーラボという組織を設け、そのメンバーが中心になってインパクトエコノミー実現に向けたシステムチェンジの触媒としての活動を展開してきました。SIIFのこれまでの活動で得られた様々な知見の体系化に努めるとともに、様々なステークホルダーを巻き込みながらシステムチェンジの取り組みの組成や実証をサポート、戦略目標③の「場作り」のための働きかけも行なって来ました。

具体的な事例としては、政府による「新しい資本主義」政策に基づいて、インパクト投資を推進するための政策提言を行うとともに、日本政府のインパクト・コンソーシアムの設立支援を行いました。また、「インパクト志向金融宣言」の拡大強化と自走化に向けた準備を行うとともに、GSG Impact JAPAN (旧称:GSG国内諮問委員会)で上場を志向するスタートアップ支援のために「インパクトIPO」ワーキンググループを設立しました。

その他、SIIFのメンバーが政府の諮問委員会などのメンバーになるなど、インパクトスタートアップ支援、公益法人改革、休眠預金活用制度における投融資事業、などの分野で様々な協力を行いました。

これからも、これまでの活動を更に拡大、進化させるべく、SIIFメンバーが一丸となって、投資家やインパクト起業家なども含め、全てのステークホルダーのみなさんと一緒に努力して参りたいと思います。2024年度もどうぞよろしくお願いします。

インパクト志向の資源循環とは

社会課題解決や価値創造のための活動で、社会的インパクトを重視することを基本に、投資とは言えない資金(寄付や助成に近い資金)や人材、知見、その他の経済的価値では測れない社会資本、人的資本、感情資本等の価値の循環を指します。旧SIIFは、インパクト投資の市場構築を目標としていましたが、合併後は、より柔軟な資金提供、すなわち経済的リターンがそれほど見込めないため「投資」とは言えないが、寄付や助成よりは支援先にとって責任ある活動が求められる資金提供の方法(例えば元本だけは返ってくるなど)も視野に入れた支援も検討しています。私たちは資金提供者のリスク許容度にあわせた、より柔軟な資金提供が社会課題の解決に活かされる状態を目指しています。